あんの感想置き場

鉄は熱いうちに打て

『豚の王』感想 いじめ復讐劇が生む絶望

これはまた衝撃的な韓ドラ作品に出会っちゃったな!?

サスペンスドラマとは別の緊張感で精神的にも結構来ました。ジャンルでは「復讐劇/愛憎劇」らしい。何日もかけて見るもんじゃない〜この苦痛は一気に過ぎ去ってほしい〜そう思う作品でした。視聴のきっかけはキム・ドンウクさんが主演だったからだけど、話が良くて結局3日間ほどで完走したと思う。韓ドラとしては比較的短い12話(1話約60分)だったのも見やすかった理由の一つ。

連続殺人事件の現場に残された20年前の友人のメッセージから“暴力の記憶”がよみがえることになった者たちを描いた追跡スリラー。

捜査で殺人現場に来た刑事カン・ジナ(チェ・ジョンアン)が、現場の壁に残された容疑者ファン・ギョンミン(キム・ドンウク)のメッセージから同僚チョン・ジョンソク刑事(キム・ソンギュ)の名前を発見。調べていくとギョンミンとジョンソクは中学の同級生で親友同士だったということがわかります。

ギョンミンの目的は中学時代に自分やジョンソクに散々暴力をしてきた生徒や教師への復讐。そして一番は当時自分達を助けてくれたチョルという大切な友達のための復讐。

中学時代の壮絶ないじめ描写がかなりリアルなので内臓が持っていかれるくらいキツイです。閉鎖的な教室で生まれるスクールカーストは地獄そのもの。担任教師までタチが悪いのが私は本当に許せなかったですね…この教室のシーンがずっと最悪!ここまで「最悪」を描けるシナリオって本当に凄いと思う。「描いてやるからお前ら見てろよ」という気概すら感じる。

大人になったギョンミンは静かに暮らしていたんですが、ある日自宅の物置でこの当時の3人(ギョンミン/ジョンソク/チョル)の写真を見つけて絶望的な記憶を蘇らせてしまいます。何かのスイッチが入ってしまったギョンミンは、人を豚のような扱いでいじめてきたのにのうのうと生きている人たちへの復讐を誓います。これが呪いの始まり…

一方ジョンソクもギョンミンと再会するまでは被害を受けた過去を葬って刑事として生きていたんですが、再会して事件を追って行けば行くほど当時の記憶が蘇って苦しめられます。ギョンミンよりも実はジョンソクの方が過去の自分がした後悔と罪悪感を拭おうと必死でどんどん追い込まれていくんですよ!最初は正義感のある内気な少年が立派に鍛えて刑事になりアングラな事件を担当している姿に「かっこいいやんけえ!」と思っていたんですが、ジョンソクの過去が蘇るにつれて「うわぁーージョンソク!!お前ってやつはあ!!」ってなる。義理堅いギョンミンとは真逆で結構自分勝手なのがジョンソクです。

 

復讐の連続殺人描写はかなりグロテスク。人が一番苦しむ手口で拷問と完全犯罪を繰り返すギョンミンのハイライトの無い目がヤバイ。ギョンミンがもう戻れないところまで来てしまっているのは一目瞭然なので、頼みの綱は彼の親友であり刑事であるジョンソクしかいないんですよ。なのに!ジョンソク!ジョンソクすぎる…ジョンソクの本心がギョンミンの復讐劇を完成させたと言っても過言ではないです。

 

ここからは最終話のネタバレ!

 

 

ギョンミンが復讐をするきっかけになったチョルは、当時中学の屋上から全校集会中に飛び降りて亡くなった少年でした。彼がなぜ飛び降りたのか。真実を知るのは友達であるギョンミンとジョンソクだけ。

復讐のクライマックスとして選ばれた舞台は母校。教室には監禁されて助けを求める当時の担任(現校長)。校庭にはギョンミンの餌に釣られて集まった当時の傍観者たち。担任と傍観者のそばには通話中の携帯。傍観者だった生徒には担任のSOSが携帯を通して聞こえているはずなのに、餌に夢中で誰一人として気付かない。そして屋上にはそれを見下ろすギョンミンとジョンソク。悲劇の再演です。もう何するか分かるよね…うん…

ジョンソクはやっと追いついたギョンミンを捕まえてなんとそのまま殺そうとしますが、ジョンソクにそんなことはできるはずがなく、過去を忘れて今まで暢気に生きてきたわけではないという本音をギョンミンにぶつけます。そこでジョンソクは気を緩めたのか、隙を見せてしまいました。ギョンミンがジョンソクの手首と自分の手首に手錠をかけます。

わぁ…繋がっちゃった…これで二人は一つだねってこと…?

オタク心が騒いだのも束の間、ギョンミンが飛び降りようとするので手錠だけでぶら下がるギョンミン。ファイト一発状態で踏ん張り生死に挟まれるジョンソク。

「ジョンソク、チョルに会いに行こう」

やだもう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ギョンミン〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

しかもギョンミンはちょっとはにかむんですよ!

そんな顔されたら…ただでさえジョンソクは揺らいでんのに………………ねえ?

お察しの通り心中エンドなんですよ…………

観衆の記憶に自らの死を焼き付けることでかけられる永遠の呪い。

チョルの死の原因はジョンソクのチョルへの崇拝。「チョルは僕らの神になるべき存在だ」とジョンソクが縋ってしまったからだったんですが、大人になった二人では「チョルの無念を晴らしたい。チョルに会いに行こう」というギョンミンの方がチョルを崇拝してたんだと思います。

もうね…言葉が見つからないんですよ…

呪える覚悟がギョンミンには既にあって(あとここまで殺人をしてきたら捕まるより逃げ切る方が圧倒的に楽でしょうね)、あとはジョンソクを待つだけだったわけで、判断をジョンソクに委ねたんですよね。もしかしたらジョンソクが引き上げる前に自分で手錠解いて死んでたかもしれない。

結局20年前のあの日と彼らは変わらなかったのかもな…どんなに過去を捨てて生きようとしても、自分たちの尊厳を踏みにじった奴らに対する憎しみとチョルに対する罪悪感は消えなくて、パンドラの箱を開けてしまった今、ジョンソクは自分は正しかったんだと信じるために、ギョンミンと一緒に行ったんだと思います。ジョンソクの判断を「逃げ」だと言う意見もあるかもしれないけど私はそうは思いたくないなぁ…と思っています。

心情描写がとても丁寧で私は好きな作品でした!