あんの感想置き場

鉄は熱いうちに打て

GHOST CLUB 〜フーディーニに狂わん方が無理では?

プレミア音楽朗読劇VOICARION(ヴォイサリオン)シリーズの3作目『GHOST CLUB』感想!

脚本・演出が藤沢文翁氏。文翁にバディものを書かせたら筆が乗りに乗ることを、姉妹シリーズのReading Highでも重々承知していたけれど、今作もまあ〜〜〜〜最高だった!VOICARIONはReading Highに比べるとより物語が文学的な印象がありますね。GHOST CLUBは音楽朗読劇の中でもかなり好き、もしかしたら一番好きなんじゃないかと思える作品だった。端的に言えば、奇術王ハリー・フーディーニの人生に釘付けになる小説家コナン・ドイルの話です。ウッ…

あらすじ

舞台はゴースト・シティとも呼ばれる19世紀ロンドン。この頃のコナン・ドイル(CV.鈴村健一は『シャーロック・ホームズ』シリーズで名声を手に入れ、ホームズをスイスにあるライヘンバッハの滝で死なせて物語を完結させた。ところがホームズの死を嘆く声が数多く寄せられ、続編を書かなければならない窮地に追いやられていた。が、思い浮かばない!ドイルには才能が枯渇しており、脳内で自分の生んだシャーロック・ホームズ(CV.渡辺徹から口煩く「いつになったら私を蘇らせるんだ?」と言われる毎日を送っていた。

ある日ドイルはジェントルメンズクラブで、15歳にして劇場オーナーのデズモンド・クロフト少年(CV.皆川純子と出会う。クラブで霊媒師の降霊術が見られるとの噂を聞き、インチキかどうかを確かめようとしたが、案外チョロいドイルはまんまと霊媒師に心を動かされ、亡き妻との大切な指輪を渡そうとしてしまう。そこに「ペテンだ!!」と割り込んでくる一人の男。男は「騙されてはいけない」と言って淡々とマジックの種明かしをし、ドイルが妻の形見を霊媒師に渡すのを防いだ。「見るべき場所を見ないと大切なものを全て見落としますよ。」と自分のホームズと全く同じことを言って静かに去っていく男。これが米国が誇る奇術王ハリー・フーディーニ(CV.津田健次郎。「待って!」とフーディーニの後を追うドイル。ここからドイルはフーディーニに猛アプローチをする。

貴方が霊媒師を言い負かした時、私の中の少年が久々に騒いだのです!まだ生きていたんだ。私の冒険心は!フーディーニさん、私と冒険してください!貴方と一緒に居れば、私の中の少年は蘇り、私は再び物語が書けるようになる気がするんだっ!ロマンが!ロマンが無ければ人生に価値など無い!!

凄い…何?ドイル先生は何を言っているの?フーディーニと結婚するつもりなの?何なの?

フーディーニは休暇でロンドンに来ていたのですが、この言葉にひとしきり笑った彼は「いいでしょう!私も貴方のロマンとやらに一つ乗りましょう!」と言う。『ゴーストクラブ』成立〜!

ここから二人は、ロンドン中を騒がせている霊媒師のインチキを一人ずつ暴いていく。フーディーニのドSな暴き方にドイルは毎回「あの馬鹿…!もう少し優しく暴いてあげなさいよ!」とタジタジにもなり、案の定、霊媒師から銃殺されかける場面も。

その時、デズモンド・クロフト少年が逃げる二人を助ける。二人と再会したクロフトは自身の劇場に青い亡霊が出るという謎を持ちかけ、二人に解明してもらおうと相談する。

クロフトが亡き両親から受け継いだ劇場に現れる青い亡霊の正体は一体何なのか?

ここからが『GHOST CLUB』のメイン。

 

ハリー・フーディーニ役 津田健次郎

以下、情緒が乱れていきます。よろしくお願いします。

いやさぁ…はぁ…アー…ずるいと思う。

冷静沈着でプロのマジシャンで脱出劇のパイオニアで命知らずな狂人で米国では『奇術王』と呼ばれるも「その称号はいささか恐縮です」と謙遜しつつ、人を小馬鹿にする憎らしさがあるのに、貧しい移民の家に生まれて物心ついた時には文字を覚えるよりも先に働いていたから『シャーロック・ホームズ』が読めなくて、飲んだくれの死んだ父がよくやっていた手からキャンディーを出すマジックが大好きで、実は誰よりも魔法を信じていたくて、ドイルよりもピアノが弾けて、ませた生意気な子供に優しい…

そんな男の声が津田健次郎ですよ!?!?!?!

冗談キツイって〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜好き……

好きになったが最後、そもそもこの物語の冒頭はフーディーニの葬儀シーンなので完全に詰んでいるんです。死ぬのを知っていながら、生き生きと真剣にエンターテイメントショーに向き合っているフーディーニを見届けなきゃいけないなんて、酷すぎる。鬼…文翁は鬼だ…

自分が津田フーディーニに惚れ込んだ神シーンが『スペードのジャック』パートから『最後の脱出マジック』パート。

フーディーニは、孤独でも世間に揶揄われても何クソと進んできたクロフトに昔の自分を重ね、クロフトが経営する劇場で、亡霊の呪いなんていないことを証明する為に、水槽からの脱出ショーをすることに決めました。ショーのリハーサルでは噂の青い亡霊のせいで溺死しかけるんですが、彼は構わずショーをやろうとする。その本番直前にクロフトから「怖くないの?」と問われる、上記のパートはそんなフーディーニが過去を告白してから、本番に挑むシーン。

怖い?いいえ、とても心地良いんです。まるで母親の体内にいるような、羊水の中で漂うような。私が吐き出す泡の音だけが耳元に響く。もしかしたら死の世界はこんなものなんじゃないか?そんなことを考えるんです。あまりに心地良くて、このまま死んでしまってもいいなぁと思う。でもね、次の瞬間怒りが沸いてくるんですよ。お客の顔をご覧なさい!心配する振りをしてあいつら、私が失敗するのを待っている。事故が起きてこの私が死ぬのを待っている。だから怒りが沸いてくる!絶対にお前らの思う通りにさせてなるものかって!ねえ…クロフト卿、この世界で一番素晴らしいのは誰もが無理だと思うことを達成することです。良いじゃないですか!天涯孤独で周囲は敵だらけ、嫌われ者で生意気なガキで、呪われた劇場のオーナー。そこから脱出したら…気分良いですよぉ?人生はね、そう思って闘うんですよ。魔法の呪文を唱えながらね。

待って〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………………

死亡フラグ凄ない???????

音楽との相乗効果で、ただのCDを聴いているはずなのに、フーディーニが舞台袖から眩しい舞台に出て行くその後ろ姿が鮮明に浮かんで見えるんですよ。彼はこれから手錠と足枷を嵌められて水槽に沈められるのに……

「紳士淑女の皆様ぁ」と挨拶をするフーディーニの尊さが半端じゃない。あかんよこんな津田健次郎…本当に…本当にさ……

私はこの時、誰よりもフーディーニの成功を祈っているし信じているつもりなんですよ!?でもやっぱり、冒頭でフーディーニが死んでしまうのを知っているので、自分はフーディーニの言う"事故が起きてこの私が死ぬのを待っている"客の一人になってしまうわけです。やめてよ…そんなこと言わないでよぉ……信じてるって…お前は生きて帰って来るんだって…お前は奇術王なんだろ!?って…本当に泣いた。

 

 

で!!!!!!!も!!!!!!!!!

煌びやかな音楽と共に「ハッハッ!!フゥ!!!お待たせしました!!!」と登場するフーディーニ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪

「紳士淑女の皆様どうしましたぁ?そんなゴースト人にでも会ったような顔して。ひょっとして、私が脱出に失敗するとでもぉ?」

ぎぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

最高。津田フーディーニ最高。推し。その嘲笑うような態度。この野郎。好きだ。馬鹿野郎。

 

安堵したのも束の間。次のパート『魔法の呪文』では3年後に飛び、フーディーニの墓の前にいるドイルとクロフト。しかも墓に新作『シャーロック・ホームズの帰還』を供えるドイル。

いや、情緒。

テンションMaxまでぶち上げておいて数秒後には喪。こうやって今文章を打っていても泣きたくなる。何で死んだん〜…ショーは成功したやん…と。ドイル曰く、彼は彼を本物の魔法使いだと信じ込んだ酔っ払いに撲殺されたらしいです。犯人は「死なないと思った」と供述。そんな…もう…どうして…どうして……

俺たちのフーディーニを返してくれよぉぉぉ……

どんな状況でも脱出してみせるフーディーニが、人ひとりに殴られただけで命を落としてしまうのがめちゃくちゃに人間だし、酔っ払いというのが彼の父とも重なって二重にしんどい。

クロフトの話では、危篤になって呼吸も浅くなった死の間際にフーディーニが看護師の耳元で「アブラ・カダブラ」と言ったと。この呪文は、フーディーニの父が死の間際にフーディーニに言い残した言葉でもあり、魔除けの呪文でもありました。一説の語源に『私は言葉のごとく物事をなせる』『この言葉のようにいなくなれ』という意味もあるようです(ウィキペディア)。

それを聞いたドイルは「賭けてもいいが…彼はもうこの棺の中には居ないよ」と言うんですよ!!うぅ……ドイルなりの弔いなんですよね…こう思うことで、フーディーニをフーディーニらしく受け止めようとしている感じがしてしんどい。

物語はこのドイルに賛同するクロフトの「きっとそうですっ…」という言葉の後に、時計の針が動き始める音が鳴って、メインテーマ曲が流れて終わり。

生前、フーディーニは「もし自分が死んであの世があるなら、メッセージを送る。あの時計(クロフトの劇場にある動かない時計)を直す。」とドイルとクロフトに言っていました。きっと…その時計やんか…たまたま動いただけかもしれない。でももしかしたらフーディーニが…という余白を、時計の音を入れるだけで想像させるセンスが好きだった。津田健次郎がどんな表情でこのシーンを迎えたのかを見ることができないのが心底心残り…

絶対に生で観たいので再演を祈るしかない…

 

最後に

ドイルとクロフトにとってフーディーニはどんな存在だったのか。まず、大切な仲間になれたのは間違いないと思います。無邪気にゴースト退治をしていた時間やシャーロック・ホームズを一緒に読んでいた時間は、本当に友達そのものだった。

それに、立ち止まっていた二人を前に「私は夢を見せるのが商売です」と言い切って誰よりも現実を見て道を切り拓いていくフーディーニには、無愛想なのにお茶目で飄々としていて生き急いでいる大人なのにどこか子供っぽくて…二人が夢中でフーディーニの背中を追った瞳の輝きまでもが、声だけで浮かんでくる。役者は凄いな!?と純粋に思った。

キャストが変われば物語の印象も変わる気がするので、他のキャストCDとも聴き比べてみたいな。

何回聴いても同じシーンで胸が熱くなれる個人的神作でした。